「〇〇さん、この湿布を貼っておいてください。」
「今日は胃ろうをお願いします。」
「吸引をお願いできますか?」
特別養護老人ホーム(特養)では、看護師が介護職へ業務を依頼する場面が日常的にあります。
しかし、
「前からやっているから」
「他の施設でもやっていたから」
という理由だけで依頼してしまうと、思わぬ事故やトラブルにつながる可能性があります。
介護職が実施できる行為には、法律や厚生労働省の通知で示された範囲があります。
この記事では、厚生労働省通知「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(令和4年12月1日通知)」などをもとに、特養で看護師が介護職へ業務を依頼する際に確認したいポイントを整理します。
※本記事は一般的な制度の概要をまとめたものです。個別の利用者の状態や医師の指示、施設の体制によって対応が異なる場合があります。判断に迷う場合は、医師や所属施設の管理者等へ確認してください。
「医行為」と「原則として医行為ではない行為」の違い
介護職は、身体介護や生活援助を担う専門職です。
一方、医行為は、医師法や保健師助産師看護師法などに基づき、原則として医師や看護師などの医療職が実施します。
ただし、厚生労働省は、介護現場で日常的に行われている一部の行為について、「原則として医行為ではない行為」として整理しています。
そのため、
「医療に関係しそうな行為だから、すべて介護職はできない」
というわけではありません。
特養でよくある依頼の例
| 看護師からの依頼例 | 考え方 |
| 「自動血圧計で血圧を測ってください」 | 原則として医行為ではない行為に該当 |
| 「体温を測ってください」 | 原則として医行為ではない行為に該当 |
| 「パルスオキシメータを装着して 測定してください」 | 原則として医行為ではない行為に該当 |
| 「医師等の指示に基づき使用する保湿剤を 塗ってください」 | 原則として医行為ではない行為に該当 (通知で示された範囲) |
| 「医師等の指示に基づき使用する湿布を 貼ってください」 | 原則として医行為ではない行為に該当 (通知で示された範囲) |
| 「医師等の指示に基づき使用する点眼薬を 点眼してください」 | 原則として医行為ではない行為に該当 (通知で示された範囲) |
| 「あらかじめ準備された内服薬の服薬を 介助してください」 | 原則として医行為ではない行為に該当 (一定の条件あり) |
| 「インスリンを打ってください」 | 原則として医行為 |
| 「点滴を交換してください」 | 原則として医行為 |
| 「摘便してください」 | 原則として医行為 |
| 「尿道カテーテルを入れてください」 | 原則として医行為 |
| 「褥瘡の処置をしてください」 | 原則として医行為 |
| 「経管栄養や喀痰吸引をお願いします」 | 喀痰吸引等制度に基づく研修修了・認定などの 要件を満たした介護職員に限り、制度で認めら れた範囲で実施可能 |
※「原則として医行為ではない行為」とされているものでも、利用者の状態や医学的管理の必要性によっては医療職が実施すべき場合があります。
「できる」の意味を誤解しない
例えば、
「軟膏は介護職でも塗れる」
という情報だけを見ると、どのような場面でも依頼できるように感じるかもしれません。
しかし、厚生労働省通知で示されているのは、
医師・歯科医師・看護職員等の指導のもとで、あらかじめ決められた方法で実施することです。
例えば、
✅ 「朝のケア時に、医師の指示どおり保湿剤を両下腿へ塗ってください。」
このような依頼は、「原則として医行為ではない行為」に該当します。
一方、
❌ 「赤くなっていたら軟膏を塗っておいてください。」
では、
- 赤くなっているか
- 軟膏が必要か
- 受診や看護師への報告が必要か
という医学的な判断を介護職へ委ねることになります。
湿布や点眼も同じ考え方です。
介護職へ依頼できるのは、「決められたケアの実施」であり、「状態を判断して治療内容を決めること」ではありません。
喀痰吸引は「研修を受けた=看護師と同じ」ではない
喀痰吸引等研修を修了した介護職員は、制度上の要件を満たすことで、一定の医療的ケアを実施できます。
しかし、
看護師と同じ範囲の喀痰吸引や経管栄養ができるわけではありません。
実施できる部位や方法には、法律や制度で定められた範囲があります。
そのため、
「研修を受けているから全部お願いできる」
ではなく、
その介護職員が制度上どの範囲まで実施できるのかを確認したうえで依頼することが大切です。
判断を任せるのではなく、「決められたケア」を依頼する
現場で迷ったときは、次の視点で考えると整理しやすくなります。
原則として介護職へ依頼できる行為
- 厚生労働省が「原則として医行為ではない行為」と整理しているもの
- 医師・歯科医師・看護職員等の指導のもとで実施するケア
- あらかじめ方法が決まっているケア
介護職へ判断を委ねるべきではない行為
- 利用者の状態を評価すること
- 医療的な判断を行うこと
- 処置内容を変更・選択すること
判断に迷ったら
「前の施設ではやっていた。」
「今までも問題なかった。」
現場では、このような言葉を耳にすることがあります。
しかし、介護職へ依頼できるかどうかは、施設ごとの慣習ではなく、厚生労働省の通知や関係法令を踏まえて判断することが大切です。
判断に迷う場合は、一人で判断せず、医師や施設の管理者などと相談しながら進めましょう。
まとめ
特養では、看護師と介護職が連携する場面が数多くあります。
だからこそ、
「忙しいからお願いする」のではなく、「制度上、この依頼は適切か」を一度立ち止まって考えることが重要です。
介護職へ依頼できるのは、「決められたケアを実施すること」が基本です。
一方で、利用者の状態を評価したり、処置内容を判断したりする役割は、医療職が担います。
役割を正しく理解して連携することは、利用者の安全だけでなく、介護職・看護師双方を守ることにもつながります。
※2026年7月時点の厚生労働省通知等をもとに作成しています。制度改正により内容が変更される場合があります。


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