特別養護老人ホームに転職したばかりの頃、私が苦労したことのひとつが、入所者さんの顔と名前を覚えることでした。
看護師としての経験はあっても、その施設では新人です。
最初は、
「顔は見たことがあるけれど、名前が出てこない」
「名前は聞いたけれど、顔と一致しない」
ということがよくありました。
特養へ転職する看護師さんは、ある程度経験を積んでから転職する方も多いと思います。
年齢を重ねてから新しい職場に入ると、
「昔より名前を覚えるのに時間がかかるな」
と、記憶力に少し自信がなくなることもあるのではないでしょうか。
私自身も最初は苦労しました。
でも今振り返ると、最初から全部覚えようと焦る必要はなかったと思います。
大切なのは、分からないまま進めないこと。
慣れない時こそ、速さより確実さと安全を優先することです。
顔だけで覚えているつもりでも、実は場所や服も見ていた
入職したばかりの頃は、自分では「顔を覚えている」と思っていても、実際にはいろいろな情報を一緒に覚えていました。
いつも座っている場所。
よく着ている服。
使っている車椅子。
居室の場所。
こうした情報が、いつの間にかその方の顔や名前とセットになっていたようです。
そのため、いつもの席と違う場所に座っていたり、普段と違う服を着ていたりすると、
「あれ?誰だったかな?」
と一瞬分からなくなることがありました。
他の方のベッドで寝ていた時はびっくり
特に印象に残っていることがあります。
ある入所者さんが他の方の居室に入り、そのままベッドで休まれていたことがありました。
最初に見た時はびっくりしました。
特養では、入所者さんがいつも決まった場所にいるとは限りません。
他の方の席に座っていたり、別の居室に入っていたりすることもあります。
この経験から、
「この部屋にいるから○○さん」
「いつもの席にいるから○○さん」
と、場所だけで判断してはいけないなと思うようになりました。
持ち物や車椅子の名前もヒントにしていた
まだ顔と名前が十分に一致していない頃は、持ち物に書かれている名前や、車椅子についているネームプレートなども手がかりにしていました。
ただ、一つの情報だけでは不安です。
顔、名前、居室、持ち物など、いくつかの情報を組み合わせて、
「やっぱり○○さんで合っている」
と確認するようにしていました。
それでも、なんとなく自信がない時は近くのスタッフに聞いていました。
「この方、○○さんですよね?」
と確認する。
間違えてしまうくらいなら、その方が安心です。
※氏名や顔写真などは個人情報です。施設でこうした情報を使用する場合は、個人情報保護のルールに沿って適切に管理する必要があります。
名前を間違えて呼んでも、普通に返事をされることがある
高齢者施設では、これもあるあるかもしれません。
「○○さん」
と呼ぶと、普通に返事をしてくださる。
でも、実は別の方だった。
そんなこともあります。
呼びかけそのものに反応される方もいるので、
「返事をされたから○○さんで間違いない」
とは限りません。
入職したばかりの頃は特に、「たぶん」で判断しないようにしていました。
覚えるために、なるべく名前を呼ぶ
一方で、名前を覚えるためには、私はなるべく入所者さんのお名前を呼ぶようにしていました。
「○○さん、おはようございます」
「○○さん、こちらへ行きましょうか」
と、実際に口に出します。
頭の中で覚えようとするだけより、何度も名前を使う方が記憶に残りやすく感じました。
それに、自分の名前を呼ばれると嬉しそうにされる方もいます。
名前を覚えるためだけではなく、自然なコミュニケーションにもなります。
すぐ覚えられる方と、なかなか覚えられない方がいる
不思議なもので、すぐに顔と名前が一致する方もいれば、何度確認してもなかなか覚えられない方もいました。
全員を同じように覚えられるわけではありません。
そして、一度間違えそうになった方は、その後も何度か迷うことがあります。
そんな時は、
「私はこの方を間違えやすい」
と、自分の中で注意するようにしていました。
記憶力に自信がないことを気にするよりも、自分が迷いやすいところを知って、そこだけ意識して確認する。
その方が現実的だと思います。
疾患や生活のエピソードが分かると、自然と覚えられる
しばらく働いていると、不思議なくらい顔と名前が一致するようになります。
それは、単純に名前を何度も見たからだけではないと思っています。
この方には、こんな疾患がある。
以前はこんな生活をしていた。
この話をするとよく笑われる。
普段はこんなふうに過ごされている。
そうした情報が少しずつ増えてくるからです。
最初は単なる「○○さん」という名前だったものが、その方の疾患や生活歴、性格、エピソードと結びついていきます。
すると、名前を思い出すヒントも増えます。
別の入所者さんと間違えることも、自然と少なくなってきます。
入所者さんを覚えるというのは、単に顔と名前を暗記することではなく、その方を少しずつ知っていくことなのかもしれません。
働き始めは、自分で自分を急かしてしまう
新しい職場に入ったばかりの頃は緊張しています。
誰かから「早くして」と言われたわけでもないのに、
「早く仕事を覚えなくちゃ」
「みんなと同じように動かなくちゃ」
と、自分で自分を急かしてしまうことがあります。
緊張している時は、普段より視野も狭くなりやすいように感じます。
そんな状態で、分からないことまで「たぶん大丈夫」と進めてしまう方が怖い。
最初の頃こそ、少しくらい時間がかかってもいいと思います。
分からなければ確認する。
自信がなければ、もう一度見る。
必要なら周りのスタッフに聞く。
速さは、仕事に慣れてくれば自然についてきます。
服薬介助は「たぶん」でやらない
特に服薬介助など、間違えてはいけない場面では、自信がないまま焦って進めないようにしていました。
私の施設にも誤薬防止のマニュアルがあり、決められた手順に沿って確認しています。
入職したばかりで自信がない時は、他のスタッフにお願いしたり、実際に確認方法を教えてもらいながら対応していました。
ある施設では、服薬に使用するボックスに氏名と顔写真を付け、確認しやすくしているところもありました。
こうした工夫は施設によって異なりますし、顔写真や氏名は個人情報なので適切な管理が必要です。
また、顔写真や居室、持ち物などだけで服薬時の本人確認を済ませるという意味ではありません。
服薬介助や処置などでは、それぞれの施設で決められた本人確認・誤薬防止の手順に従うことが基本です。
何度聞いても嫌な顔をされなかったので安心できた
入職したばかりの頃は、同じことを何度も聞くのが申し訳なく感じることもあります。
「これ、前にも聞いたかな」
「また聞いたら嫌がられるかな」
と思うこともありました。
でも、私が入職した時、周りのスタッフは何度聞いても嫌な顔をせず教えてくれました。
これは本当に助かりました。
新人が、
「分かりません」
「もう一度確認させてください」
と言える雰囲気は、とても大切だと思います。
覚えやすいというだけでなく、安全にもつながるからです。
まとめ|最初こそ、速さより確実さと安全を
特養に転職したばかりの頃、私も入所者さんの顔と名前を覚えるのに苦労しました。
服や座る場所が変わると分からなくなったり、他の方の居室にいるだけで一瞬混乱したり。
そんな時は、一つの情報だけで判断せず、いくつかの手がかりを確認し、それでも不安なら周りのスタッフに聞いていました。
そして、毎日関わるうちに、疾患や生活歴、普段の様子、ちょっとしたエピソードまで名前と結びついてきます。
そうなると、自然と顔と名前も一致するようになります。
看護師としての経験があっても、新しい施設では新人です。
最初から全部を覚えようと焦らなくても大丈夫。
特に働き始めの頃は、速さより確実さと安全を優先する。
分からない時に確認することも、大切な仕事のひとつだと思っています。


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