はじめに
こんにちは。特別養護老人ホーム(特養)で働く看護師です。
以前、病院で摂食嚥下ケアに携わる「嚥下サポート委員会」の活動に参加し、現在は特養で認知症の方の食事介助を行っています。
現場では、
「今日は口を開けてくれませんでした。」
「食事を拒否されたので終了しました。」
という報告を受けることがあります。
もちろん、本当に食べたくないこともあります。
一方で、口が開かない理由は「食べたくない」だけではないと感じる場面も少なくありません。
私がこの記事でいう「食べる準備」とは、食べ物を認識し、ご本人のペースで口へ取り込み、安全に飲み込める状態へ整えていくことです。
食事介助とは、ただ食べさせることではなく、その方が持っている「食べる力」を引き出すお手伝いだと私は考えています。
今回は、私が特養で大切にしている5つの工夫をご紹介します。
※この記事は、筆者が現場で実践している介助方法や経験をもとにまとめています。食事介助の方法は、ご本人の嚥下機能や認知症の状態、医師・言語聴覚士(ST)など専門職の評価、施設の方針によって異なります。
① まずは「見てもらう」
人は多くの情報を視覚から受け取るといわれています。
そのため私は、視力に大きな問題がない方であれば、スプーンをすぐ口へ運ばず、まず食べ物を見ていただく時間をつくります。
ご本人の見やすい位置で数秒止め、
「今日はかぼちゃですよ。」
「ハンバーグですよ。」
など、短い言葉を添えます。
認知症の方の中には、食べ物を認識する時間をつくることで、自然に「あーん」と口を開けてくださる方もいます。
② 声かけは短く、刺激は少なく
認知症の方は、たくさん話しかけられることで情報量が増え、落ち着かなくなってしまうことがあります。
私は必要なときだけ、
「〇〇さん。」
と名前を呼び、こちらへ意識を向けてもらいます。
その後は短く分かりやすい言葉で伝えるよう心掛けています。
反応には個人差があるため、ご本人の様子を見ながら関わることを大切にしています。
③ 食べるタイミングを待つ
スプーンを口元まで運んでも、まだ食べる準備が整っていないと感じることがあります。
そんなときは、そのまま口へ入れようとはせず、一度少し離して仕切り直します。
再び食べ物を見ていただき、ご本人のタイミングを待ちます。
「待っていたら時間がかかるのでは?」
そう思われるかもしれません。
私も忙しい現場では同じように感じることがあります。
しかし、準備が整わないまま介助すると、一口量が少なくなったり、何度も口へ運ぶことになったりする場面を経験してきました。
ご本人のタイミングに合わせた方が、結果として落ち着いて食事が進むこともあります。
④ 唇で取り込むまで待つ
口へ入れたら、すぐにスプーンを抜きません。
ご本人が唇で食べ物を取り込み、唇が閉じたことを確認してから、ゆっくり水平にスプーンを抜きます。
介助者のペースではなく、ご本人のペースを大切にすることで、安心して次の動作へ移れる方もいます。
⑤ 次の一口は「嚥下」を観察してから
次の一口を運ぶ前には、口の中の様子や顎の動き、飲み込みの様子を観察します。
「口の中の食べ物を飲み込んでから次の一口へ」と言っても、なかなか飲み込みが進まない方もいます。
そのようなとき、私は次の一口をスプーンにのせ、ご本人の見やすい位置でお見せすることがあります。
「次はこれですよ。」
そうして食べ物を認識していただくことで、口の中の食べ物を飲み込み、次の一口へ進める方を経験することがあります。
もちろん、すべての方に当てはまる方法ではありません。
必要に応じて食事形態や水分形態(とろみなど)を調整しながら、ご本人の様子を観察して介助することが大切です。
「待っていたら遅くなる」と思う気持ちも分かります
食事介助の時間は限られています。
他にも介助を待っている利用者さんがいる中で、一人の方だけに時間をかけ続けることは難しい場面もあります。
だからこそ私は、「ただ待つ」のではなく、「食べる準備を整えながら待つ」ことを意識しています。
ほんの数秒、食べ物を見てもらう。
ほんの数秒、ご本人のタイミングを待つ。
その積み重ねが、落ち着いて食事を進められることにつながる場合があります。
私が食事介助を好きな理由
食事介助が難しい利用者さんでも、私が食事を持って席に座ると、「あーん」と大きく口を開けて待ってくださる方がいます。
その表情を見ると、「今日も楽しみにしてくださっていたのかな」と感じることがあり、私までうれしくなります。
もちろん、本当のお気持ちはご本人にしか分かりません。
私は、その方に合わせて食べ物のまとまりや硬さを確認し、必要に応じて食事形態を調整したり、とろみを付けた飲み物を間にはさんだりしながら介助しています。
それが理由だと断言はできませんが、一つひとつの小さな工夫や日頃の関わりが、ご本人の安心につながっているのかもしれないと感じることがあります。
食事介助は、ただスプーンを運ぶ仕事ではありません。
その日の体調や嚥下の様子、表情の変化を観察し、その方が持っている「食べる力」を支える、とても奥が深く、やりがいのあるケアだと私は感じています。
まとめ
食事介助には、それぞれが大切にしている方法や工夫があります。
今回ご紹介した内容も、私が現場で実践している一例です。
忙しい現場では、頭では「待つことが大切」と分かっていても、焦ってしまうことがあります。
その気持ちは、私にもよく分かります。
だからこそ、まずは一人の利用者さんから試してみませんか。
少し見てもらう。
少し待ってみる。
ご本人のタイミングを観察してみる。
その小さな工夫が、「食べない」と思っていた方の食事時間を変えるきっかけになるかもしれません。
この記事が、日々認知症の方の食事介助に関わる看護師さんや介護職の皆さんのヒントになれば幸いです。


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