特養で働いていると、
「この方、なかなか飲み込んでくれない」
「口にため込んでしまって、食事が進まない」
そんなふうに、「食事介助が難しい」と言われる方がいます。
ところが、みんなが「難しい」と言うその方が、私にとっては一番食事介助しやすい方だったりします。
別に、私に特別な食事介助の技術があるわけではありません。
私も最初からうまくいったわけではなく、いろいろ試しました。
その方の反応を見ながら試行錯誤しているうちに、
「この方は、こうすると食べやすそう」
というパターンが、少しずつ見えてきたのです。
「飲み込まない」のは、どこで止まっているんだろう?
その方は、食べ物を口に入れても、なかなか次の動きにつながらないことがあります。
周囲から見ると、
「飲み込まない」
「口にため込んでいる」
ように見えます。
でも私は介助しながら、
「本当に“飲み込むところ”で止まっているのかな?」
と考えるようになりました。
食べるという動作には、
- 食べ物に気づく
- 口を開ける
- 口に取り込む
- 口の中で食べ物をまとめる
- 舌などを使って奥へ送り込む
- 飲み込む
という流れがあります。
同じ「食事が進まない」でも、どこで難しくなっているかは人によって違います。
この方の場合、私には、嚥下そのものというよりも、食べ物を認識して口に取り込み、口の中から次の動作につなげるまでに時間が必要なのかなと感じました。
もちろん、これは日々の介助の中での観察であり、嚥下機能について自己判断しているわけではありません。
最初から分かっていたわけではありません
今では介助しやすい方ですが、最初から「こうすればいい」と分かっていたわけではありません。
声をかけてみる。
食べ物の見せ方を変えてみる。
口に運ぶタイミングを変えてみる。
姿勢についても、その方の状態や施設での評価・方針を踏まえながら調整しました。
やってみる → 反応を見る → 少し変えてみる。
その繰り返しでした。
うまくいかなかったことも含めて反応を見ていると、その方が食べやすそうなパターンが少しずつ分かってきます。
食レポみたいに、まず見てもらう
この方には、いきなりスプーンを口元へ持っていくより、まず食べ物を見てもらう方が反応がいいことがあります。
私はちょっと「食レポ」のような気分で、
「今日は○○ですよ」
「おいしそうですね」
などと声をかけながら、スプーンに乗せた食べ物を見てもらいます。
すぐには口元へ運びません。
気づくまで、ちょっと待ちます。
すると、食べ物に気づいたように、自分から口を開けてくれることがあります。
そこでゆっくり口へ運び、その方の反応を見ながら取り込んでもらいます。
急いでスプーンを抜くのではなく、口や舌の動きを見ながらゆっくりと。
タイミングが合うと、
「待ってました」
というような感じで、おいしそうに食べてくれます。
この瞬間が、私は結構好きです。
スプーンの触れ方で反応が変わることも
介助していてもう一つ感じるのが、スプーンが唇や舌にそっと触れたときの反応です。
同じように食べ物を口に運んでも、触れ方によって、その後の口や舌の動きが違って見えることがあります。
私には、それが「口の中に食べ物がある」と気づくきっかけの一つになっているのかな、と感じられることがあります。
ただし、これは「こうすれば飲み込める」という方法ではありません。
口を無理に開けたり、強い刺激を加えたりするものでもありません。
あくまで、その方の体調や嚥下状態、本人の反応を確認しながら行っている一例です。
同じ「口を開けない」でも、理由は一つじゃない
別の方を介助しているときには、
「口を開けないのは、前の一口がまだ終わっていないからかな?」
と考えることもあります。
前の食べ物がまだ口の中に残っている。
送り込みに時間がかかっている。
疲れてきた。
もう食べたくない。
食事に気づいていない。
同じ「口を開けない」でも、理由は一つとは限りません。
だから私は、口を開けてもらう方法を考える前に、
「今、どこで止まっているんだろう?」
と見るようにしています。
少し待つと次の動きが始まるのか。
声をかけると反応が変わるのか。
食べ物を見せると気づくのか。
本人の反応を見ながら次の一口へ進む方が、結果的にスムーズになることがあります。
「今日はどれかな?」とパターンを変えてみる
面白いのは、
「この方法なら大丈夫」
と、一つの方法に固定できるわけでもないことです。
同じタイミング、同じ声かけ、同じ流れを続けていると、なんとなく反応が鈍くなってくるように感じることもあります。
そんなときは、声をかけるタイミングや食べ物の見せ方、待つ時間などを少し変えてみます。
私の中には、その方が食べやすそうないくつかのパターンがあります。
「今日はどれかな?」
と反応を見ながら試していると、
ピタッとハマる瞬間があります。
急いで食べてもらおうとしているわけではないのに、そこから食事がスムーズに進む。
この「ピタッとハマる感じ」が私は結構好きです。
急いでいないのに、結果として食事時間も短くなった
その方に合う関わり方が少しずつ分かってくると、「なかなか次に進まない」と待ち続ける時間が減りました。
結果として、食事にかかる時間も以前より短くなりました。
特養の食事時間は、一人の方だけに時間をかけられるわけではありません。
一人の食事介助がスムーズになることで、ほかの入所者さんを見る余裕も生まれます。
ただ、私が一番よかったと思っているのは、時間が短くなったことではありません。
「どうやってるんだろう?」と見に来た介護士さん
ある日、私がその方の食事介助をしているのを見て、
「どうやってるんだろう?」
と興味を持った介護士さんがいました。
実際に介助しているところを見に来て、その後は自分でも、その方の反応を見ながらいろいろ試していたようです。
しばらくすると、その介護士さんも食事介助がスムーズになっていました。
そして、
「食べてくれるし、楽しい」
と、張り切って食事介助に入るようになりました。
これが私はちょっとうれしかったです。
「こうしたらいいよ」だけでは伝わらなかった
実は、それまでにも何人かに、
「こうすると食べやすそうですよ」
と伝えたことがあります。
でも、方法だけを言葉で説明しても、なかなか同じようにはいきませんでした。
考えてみれば、私自身も決まった手順を繰り返しているわけではありません。
表情や口の動きを見ながら、
「まだかな」
「今かな」
「今日はこっちかな」
と少しずつ調整しています。
見に来た介護士さんも、私の方法をそのまま真似したからできるようになったのではなく、興味を持って本人の反応を観察し、自分でも試行錯誤したから、その介護士さんなりの介助の仕方が見つかったのだと思います。
食事介助のコツは「手順」だけではないのかもしれない
食事介助が難しいと、
「どうしたら食べてもらえるんだろう?」
と方法を探したくなります。
もちろん、姿勢や食形態、一口量、嚥下状態など、安全のために確認すべき基本はあります。
そのうえで、
その人をよく見る。
試してみる。
反応を見る。
必要なら少し変えてみる。
そんな積み重ねから見えてくるものもあります。
「この人には、この方法」と一つに決めるのではなく、
その方が食べやすいパターンをいくつか持っておく。
そうすると、「難しい」と感じていた食事介助が少し違って見えることがあります。
顔を見るだけで口を開けることも(笑)
ちなみにその方、普段はなかなか口を開けないのですが、私がバイタル測定に行っただけなのに、顔を見ると口を開けてくれることがあります(笑)。
食事の時間ではありません。
もちろん、本人が何を思っているのかは分かりません。
でも、
「私の顔と食事介助が、何となく結びついているのかな?」
なんて思うことがあります。
こういう反応を見ていると、食事介助はその場の技術だけではなく、普段からの関わりや、なじみの関係も影響しているのかもしれないと感じます。
まとめ|難しい仕事が、分かってくると楽しくなる
みんなが「食事介助が難しい」と言っていた方が、今では私にとって介助しやすい方になりました。
最初からできたわけではありません。
いろいろ試して、反応を見て、また変えて。
その繰り返しの中で、その方が食べやすいパターンが少しずつ見えてきました。
そして、ピタッとハマると、おいしそうに食べてくれる。
急いでいるわけではないのに食事がスムーズに進み、結果として時間にも余裕ができました。
さらに、それを見た介護士さんまで、
「食べてくれるし、楽しい」
と言ってくれるようになりました。
難しいと思っていた仕事も、相手の反応が少しずつ分かってくると面白くなることがあります。
私は食事介助のこういうところが、結構好きです。
※この記事は、特別養護老人ホームでの筆者の経験をもとに、個人が特定されないよう内容を一部一般化して紹介しています。食事介助の方法や適切な姿勢・食形態などは、嚥下機能や身体状態によって異なります。むせ、声の変化、呼吸状態の変化などがみられる場合や、安全な経口摂取に不安がある場合は、施設の方針に沿って医師・看護師・言語聴覚士・管理栄養士などの専門職と評価・検討してください。
食事介助で迷ったときに私が見ているポイントや、食べない・むせる・口が開かないときの考え方はこちらにまとめています。
▶ 高齢者の食事介助で困ったときに|特養看護師が見るポイントと対応まとめ


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