「転倒していないから、骨折ではないだろう」
高齢者施設で働いていると、そう簡単には言えないことがあります。
ある入所者さんが、大転子部あたりを痛がっていました。
職員が把握している範囲では、明らかな転倒は確認されていません。
その時点では歩くこともできていました。
私が観察した範囲では、腫れや熱感、皮下出血など、見た目にも目立った変化はありませんでした。
痛みの訴えは、はっきりしませんでした
その方には認知症があり、痛みの訴えは一定ではありませんでした。
「痛い」と言ったかと思えば、その後は痛みを訴えなかったり、痛い場所の表現が変わったりすることもありました。
訴えだけでは、状態を判断しにくいところがありました。
ただ、ひとつ気になったのが、
動かしたときの痛みが続いていること。
安静にしていても改善せず、一晩たつと、それまで歩けていた方が、介助しても痛みで寝返りするのが難しくなっていました。
これは一度、医師に診てもらったほうがいい。
そう思いました。
骨折ではないことを確認したかった
整形外科を受診するとなると、
「どこかで転倒していたのかな?」
「自分たちのケアに何か問題があったのかな?」
そんなことも考えます。
振り返ってみても、思い当たることはありませんでした。
昼間は見守りがあり、夜間もセンサーで覚醒を確認していました。
もちろん、すべての動きを常に見ているわけではありません。
それでも、職員が把握している範囲では、明らかな転倒や強くぶつけたような出来事は確認されていませんでした。
私も最初から骨折を強く疑っていたわけではありません。
むしろ、
「骨折ではないことを確認したい」
という気持ちのほうが大きかったと思います。
必要な診察や画像検査を受けて、骨折がなければ痛み止めについて相談し、今後の対応について医師の指示をもらう。
そして、そのまま施設に帰ってくる。
そのくらいの気持ちで整形外科を受診しました。
レントゲンで大腿骨頸部骨折が見つかった
ところが、レントゲンの結果は、
大腿骨頸部骨折。
そのまま入院となりました。
聞いたときは、
「え? 骨折?」
というのが正直な気持ちでした。
施設のスタッフもみんな驚きました。
高齢者では、骨が弱くなっている場合、明らかな転倒や大きな外力が確認できなくても骨折することがあります。
今回、いつ、どのようなきっかけで骨折したのかは分かりません。
無理に動かさず受診につなげた
受診までの間は、痛みが強かったため、できるだけ無理に動かさないようにしました。
その時点では、骨折と分かっていたわけではありません。
でも、
「もし骨折しているのに、痛いのを我慢して歩いてもらったらかわいそうだな」
という気持ちはありました。
原因が分からないまま無理に動かすより、まず診てもらおう。
そう考えて、できるだけ負担をかけないように受診につなげました。
結果的に骨折が見つかり、あのとき無理に歩いてもらわなくてよかったなと思いました。
現場で分かることには限界がある
今回、改めて感じたのは、
骨折かどうかを、現場だけで判断するのは難しいことがある
ということでした。
「転倒してないよね」
「腫れてないよね」
「でも、動くと痛がるよね」
と、現場で情報を整理することはできます。
けれど、それだけで骨折の有無を確定することはできません。
今回のように、
- 痛みが続いている
- 動かすと痛がる
- それまでできていた動作ができなくなった
という変化があるなら、
「ここから先は医師に診てもらおう」
と切り替えることも大切だと思います。
今回の私は、骨折を見抜いたわけではありません。
「骨折ではないことを確認してもらおう」
そう思って受診したら、骨折が見つかりました。
だからこそ、
分からないことを現場だけで抱え込まず、必要なところで医師につなぐ。
それも特養看護師の大切な役割なのだと、改めて感じた出来事でした。
※この記事は、特別養護老人ホームで勤務する看護師としての経験をもとに、内容を調整して記載しています。
※同じような症状でも、原因や必要な対応は人によって異なります。この記事は個別の診断や受診基準を示すものではありません。強い痛みや動作能力の急な低下などがみられる場合は、個々の状態に応じて医師へご相談ください。


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